合わせ鏡の偶然。
偶然は必然で 現実はファンタジー。
飴は苦く悲しみは甘い。
合わせ鏡はとこしえに 代わらぬ模様を映し出す。
刹那の瞬間捕われて 回り回され猫妖精。
長靴の中には永遠が
帽子の中には瞬きが
てぐすね引いて語りかける。
〜Mirage〜
トリコロールでレゲエカラーのTシャツに学ランの前ボタンを全部外す俺のスタイル。
はっきり暑苦しいとは思うけど、アイデンティティは大事だし。
夏はヘアワックスが落ちやすい。
百均のデカカガミで小まめに確認する。 よし、大丈夫!
ふと目が合った。
誰でも無い俺と。
路傍のカーブミラーに写ったデカカガミに写った俺と。
合わせ鏡に太陽が反射する――
『ぁωネェ。+゜今ヵラォケ(*^U^*)b ナょωナニ゛ヶド〜 真由モ来ナょぃ?』
香奈に誘われてカラオケに行くのは楽しい。香奈だけではなく皆もいるし。
『ぃ〈ぃ〈〜(≧ω≦◎)p" ソッ⊃ーでぃ〈ヵゝら♪ヾ』
返信は早い方がいい。あんまり遅いと機嫌を損ねる。
チャリかっ飛ばしていつものカラオケに行った。
ャバ髪ぼさってる!?
トイレに入って電池式のカーラーを出す。
地毛と言い張れる程度の茶髪を緩めに巻く。よしヵンペキ!
当たり前だけど鏡の自分と目が合った。やっぱアタシってィイ感じぢゃん?
携帯がメールを受信する。
LEDで合わせ鏡が華やいだ――
ドレッサーに顔を近付けて覗き込む。
顎の肉を引っ張る。
むー… やっぱりバイキングがいけなかった。
鏡に赤いペンで潜在能力と美の女神を司る『W(ウィン)』を書く。
これでちょっ とマシ?
手近にあったコンコルドでセミロングを上げる。少し小顔に見える。
スイマーの手鏡で後髪をチェックしようとした。
でも目測謝って全然違う所を映す。
ドレッサーに写った鏡が真っ白だ。なんで!?呪い?
変に緊張した自分の顔が目に入った。
あっ、蛍光灯だ。
緊張をゆるめる。
手鏡とドレッサーが合わせ鏡になっていた。
鏡の中の里花子の顔が揺らいだ――
「桜!」
「ルリりーん!」
「お団子危険域だよ?」
「マジ!?」
頭のピンは八本。ルリにも手伝ってもらって取る。
てっぺんに作ったお団子も外す。
「やだ桜、今日がっちり固めたんだった!」
「あー、桜!座って、座って。」
テンパる桜を席に着かせてガピガピになった髪をブラシを掛ける。もう一回お団子にする。
「出来たー。」
「ありがとルリりーん!」
「いえいえ。あー、これおもしろーい。」
机の上で二人の手鏡が合わさってずっと中がリンクしている。
「おースゴッ!これってなんて言うんだっけ?」
「確か、合わせ鏡とか言わない?」
机にほっぺをくっつけて交互に覗く。
「へーんなの。桜がいっぱい。」
鏡の中の桜が一気に笑った――
「A判定だ草狩。この調子だぞ。」
今日はこの台詞を三回聞いた。
少し上のレベルを狙った俺の努力を労う言葉。
「っしゃー!」
上がる口輪筋を抑えつつトイレに飛び込んで俺は叫んだ。
メッチャクチャに鏡を叩いて跳びはねた。
「俺やるじゃん!?なんこれ!!超すごいじゃん!?」
今年建て換わった校舎もトイレが綺麗だ。男子トイレにも手洗いの他に身嗜み用の鏡も付いている。
合わせ鏡の中、俺達は全身で喜びを表した。
右側の鏡が、砕けた――