「ねぇ?真由ってさ嫌いな人いないの?」
夏休み。バイト先。由香に言われた一言。今思えば、それが兆しだった。と思う。
『今日は、貴女です。ブラウン・レディ。』
〜Huguenot〜
女は面倒。とにかく、間違いない。
独りで考えて勝手に結論を出し。それを真実として吹聴する。
「またかよ。」
坊主がぼやく。アタシはこのくらいストレートな方がいい。男に生まれたかった。
「ほんっとにやめてほしいよな。」
ツンツンは超ビビりだ。派手な見た目してさ。
それはアタシも変わらないか派手なだけで、実は女気もなかった。見た目と性格なんて、一致するとは限らない。
「実はさ、今度はアタシなんだよね。」
また解剖生理の時間。成績落ちたらどうする。
「桜また塾の時間だよ。今度は親に連絡いくって!絶対!!」
なんか条件付けされてきた。あの猫の嫌がらせ。
「何を探すんですか?」
おばさんが言う。そこら辺抜かりはない。
「iPod。
nanoでもminiでもシャッフルでもない300GBの高いヤツ、無くなっちゃって。」
ずっと、考えて決めてた。賭だ。アタシが探してるのは本体じゃない。口にされなかった真実。
ちびっ子が終わったときからずっと考えてた。
もしも、それを見付けられたならアタシは希望を棄てられる。
「お前、物欲丸出しだ。」
坊主は素直だ、こいつ好きだな。
「解りやすくていいっしょ?ちびっ子も塾終わるまでに帰れるかもよ。」
「桜だもん。」
あーはいはい。前あんだけ大泣きした割に変わんない。こいつも嫌いじゃない。大嫌いだけど。
「で?300GBの目星はついてんの?このゴーストタウンでさ。」
まぁ、見回す限り一世代前の安っぽいホラー。
墓に洋館。これは出るねゾンビ。ドラキュラ?
「アタシそれ学校で無くしたの。
あの洋館さ、学校に見立ててんじゃない?
だからさぁ、行こうよ。」
やっぱりツンツンはビビり。
「冗談じゃねぇよ!」
うざいなぁ。
「じゃあ、あんたは見張りでいいわ。行こ。」
アタシは勝手に歩きだしたけど、みんな着いて来た。
洋館の入って左側に階段があった。入って直ぐには段差。アタシの学校。
「探し場所候補は四つあんの、手分けしない?調度四人だし。」
「五人だ!」
いつの間にかツンツンもいた。
「ツンツン来てたんだ?」
「一人じゃこえぇの!」
恐すぎてテンションハイだ、こいつ。
「じゃあ一つ二人組にするか?」
坊主が言って、
「桜、真由と行く!」
「俺、草狩とかいい!」
二人が言ったのは同時。
「んだよちびっ子!」
「桜だって怖いの!」
まぁツンツンよりは可愛いげがある。
「じゃあちびっ子、茶髪と行けよ。」
坊主はおもしろがってツンツンを見る。
「こンの冷血漢!!」
あーあー、半泣き、半泣き。
「じゃあ、場所言うね。
候補1!一年の教室。これはアタシとちびっ子が行く。」
「桜だもん!」
あーはいはい。
「候補2!基礎看護実習室1、三階まで上がってすぐ左ね。これは、……ツンツン!」
うー、だの、ぇ゙ー、だの言う。
「候補3!部室の書道教室。2階に上がった正面。これは……おばさん!」
はいはい、だって。モロ中年。
「候補4!第二教室。基礎看護実習室の隣ね坊主。」
おー。簡単な答。
「じゃあ、解散!
…行くよ、ちびっ子。」
「桜だもん。」
あーはいはい。
「真由さぁ、どうかした?」
教室に行き着いてスライドドアを閉めて桜が言った。
「なにが?」
ほんとに教室をお化け屋敷に見立てたみたいな部屋。
「なんか妙に焦ってるっていうか。」
ちびっ子はなんか鋭い。気ぃ使いだから。
「あんさー、ちびっ子。アタシ高校入ったとき空気読めないから嫌いなヤツいたんだよね。」
ふーんとか言って桜はその辺を物色する。
アタシもならう。
「それを仲良くなった裕子って子に話したら。『もう、高校生なんだからいじめとかはダメじゃん。』って言われたの。んで、アタシはそーなんだ。って思ったの。」その時は、裕子は大人だと思った。
「それで?」
「それで夏休みに中学から一緒だった由香に誘われて短期のバイト一緒にしたの。その時に聞かれたんだ『真由って嫌いな子いないの?』って、アタシは裕子を見習ってそういうの止めにするって思ってたから『いない』って言ったんだわ。」
「由香って子には偽善って思われたんじゃない?いー子ぶりっ子ってさぁ。桜はそう思うと思う。」
言ったアタシが思うのもアレだけどアタシも言われたらそう思う。
「そうだね。それからアタシにはそういう話はNGって事になったぽいの。由香と裕子はスッゴい仲良かったから、そういう話もしてて、夏休み明けにグループの中の一人を由香を中心にハブり出したんだ。」
「ハブ?」
桜の学校にはないのかハブる。
「言わない?ハミると一緒。」
「あー、聞かない。」
「そう?それでアタシははっきりと『アイツ、ハブろう』って言われた訳じゃないから。何と無くあれでさ。」
調度物色してたのは由香の机。窓際の1番後ろ。
「会話の延長で『今日は話黒いじゃん?』って言ったの。そしたら裕子。『だってあっちが悪いじゃん!』だってなんか脱力したわ。」
桜がツボなのか笑う。
何と無く空気も和らいだ。
「なにそれ!超ガキじゃん裕子。ありえない。それ桜でもやらない!」
ひとしきり二人して笑って落ち着いたら桜が言った。
「それで?真由もかなり微妙なとこでしょ?」
あの微妙なポジション。ただでは済みずらい。
「アタシは両方ともと普通に話したよ。要領悪いからさぁ、他の子みたいに由香になんとなく味方するとかしなくてさ。
その頃なんだよね。iPod失くなったの。」
桜の顔が冷めかえる。
「この前ちびっ子が、言ったじゃん?その時の状況が流れ込んでくるって。
だから、アタシは事実を探しにきたのよ。本体はなくてもいい。あるならあればいいけど。」
「高いもんねあれ。」
「しかも今売ってないの。」
「あー、それパチられたら腹立つね。」
「パチ?」
パチキ?
「真由の方はパクるなの?桜はパチるが主流なんだけどな?じゃあマクドナルドは?」
「マクド。」
「桜の方はマックだ。ってかマクドは無いよ。」
「なんでよ。マックってマしか合ってないじゃん。」
「マックカフェっていうじゃん。マッククーポンとか。こっちの方が公式だよ。」
「なに、公式って!?そんなんに非公式もねぇよ。」
全然違う話だ。
アタシ等の話は激流のペースで流れる。長時間同じ話なんて無理。
「こら!真面目にやれよ。」
声がした。入口に坊主がいた。
「桜達ちゃんと探してるよ。」
「それであったのか?」
「ないでーす。」
「だろうな。ツンツンが見付けたから。」
「……」
「……」
「ツンツンが見付けた。」
「早く言えよバカ!」
「早く言ってよ!」
ツンツンは確か、実習室。
「坊主の性格ブス!」
「ぶーす!」
そういって、追い掛ける坊主より先にアタシ等は階段を駆け上がった。
なんでちびっ子に話そうと思ったのか、それは現実に関係の無い。夢の中だけの知り合いだから。
結局こいつらが実在するとは、アタシは信じきれてない。
「見つけたの?」
ツンツンは静かに頷いた。
「なに?静かじゃん。」
「こぇえもん。この部屋1番気味悪い!」
知ってた。そのうえでのツンツン起用。
「で、アタシのiPodは?」
「あー、これだけど。いいのか?」
ツンツンは気を使っているのだ。ここはあの猫の悪意に満ちている。
これに触れるとはあいつに心をこじ開けて侵入を許すということ。
でも、
「ありがとう。これ探してたの。」
アタシはそれを受け取る。