かごめ かごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる?
夜明けの晩に
鶴と亀が すべった
うしろの正面 だあれ
「多恵が身篭ったらしい。」
爺様に言われて驚いた。
「相手は誰です?」
私は振り向きざまに叫び問う。
必死の形相だっただろう。
「そりゃ、おめぇ浩二さんに決まってら。
前々から噂もあったしなによりずっと一緒に居たんだ。
なんにもおかしかねぇ。」
「そうですね・・・。
なんせ私も多恵の事が心配だったモンだから
浩二さんなら何の問題もありゃしないわ。」
笑顔を取り繕って答えると、爺様は安心したようだった。
「そうだな喜美江。
おめぇと多恵は小さい頃からの仲だ。」
そして何となく嬉しそうな顔で出て行く爺様を見送って
私は解れた着物のすそを繕いにかかる。
布を握る手に力が入る。
気味悪い憎悪の念が体を駆け巡る
多恵が身篭った。
裏切った多恵が
浩二さんと
私を裏切った
浩二さんと・・・
「浩二さん・・・・。」
かつて私と将来を誓った浩二さんは
いまや、妹同然としてきた多恵の元に居る。
家柄も容姿も格段に上である私を差し置いて
多恵はあの人の子供を身篭ったという
この怨み如何してくれよう。
心を静めるため
私は夕方の風を浴びに庭へ降りる。
近所の子供達が道で輪を描いて遊んでいた。
「かごめ かごめ
籠のなかの鳥は
いついつ 出やる
夜明けの晩に
鶴と亀が すべった
うしろの正面 だあれ」
子供は無邪気でいい。
幼い頃は
私と多恵もこうしてよく遊んだものだ。
あの頃から、かわいらしい、よくできた娘だ、と誉められるのは私だった。
あの子はいつも私の後ろを危うそうについてくるだけ。
「なのに。」
唇をかみ締めた時、玄関で声が聞こえた。
「御免下さい。喜美江ちゃんいますかぁ?」
多恵だ。
「多恵・・・。」
今、あの子と話す事はできなかった。
「喜美江ちゃーん。」
何度も何度もあの子は私を呼ぶ。
煩いので
私は一つの手紙を多恵に渡して帰らせた。
『明け方、寺で待つ』
明け方
漆黒の闇にほんの少し薄明かりがさし始めたころ
私は近所の寺の裏で多恵が訪れるのを待った。
以外にも多恵はすぐに現れた。
私に会うのを躊躇するかと思ったが、
やっぱり幸せな女はそんな事を思いもしないのだろう。
「あの、喜美江ちゃん・・・?」
多恵が控えめに声をかけてくる。
私は自分から呼び出しておいて返事もなく無視しつづける。
「ごめんね・・、浩二さんのこと。
でもね、喜美江ちゃんの恋人だからとかじゃなくて、
本当に浩二さんが好きだったの。
許してなんて言えないけど、2人の事を認めて欲しい。」
認めてほしい・・・?
私の中で沸々と煮え立っていた憎悪が爆発する。
「多恵!言い訳なんて聞きたくないわ。
笑顔貼り付けたその厚い面の皮で、浩二さんは騙されてだろうけど
私は騙されない、私はあんたを許しはしないわ。
心の中で『してやったり』と思ってるんでしょう?
あんたなんて死んでしまえばいい!」
死んでしまえばいい。
死んでしまえばいい。
死んでしまえばいい。
死んでしまえばいい。
死んでしまえばいい。
死んでしまえばいい。
かごめ かごめ
籠の中の鳥は
いついつでやる
夜明けの晩に
鶴と亀が滑った
後ろの正面だぁれ?
憎悪に埋め尽くされた頭の中に不意にわらべ歌とある考えが浮かんだ。
そうだ、死んでしまえばいい。
「喜美江ちゃん・・・。」
それっきり何も言えなくなっている
多恵に私は少しため息をついて微笑んだ。
「もう、多恵。
ちょっと後ろを向きなさい。」
いきなり穏やかになった私の態度に動揺しつつも多恵は
柵の方を向く。
柵の後ろは・・・。
私は目の前にある多恵の背中を思いっきり突き飛ばした。
柵の後ろは崖。
多恵は柵と一緒にまっ逆さまに落ちて行く。
「ふふっ。」
私は、口元が緩むのを抑える気はない。
ゆっくりと山道を使って多恵が落ちて行ったと思しき場所へ向かう。
この高さなら落ちれば命はないだろう。
私は多恵を見つけた後、夜が明け切る前にまだ若い桜の木の根元に埋め、
何食わぬ顔で屋敷に戻りその後、浩二さんと結婚しました。
かごめ かごめ
腹の中の子供は
いついつ生まれる
夜明けの晩に
娘と子供がおちってった
突き落としたのはだぁれ?
{籠目