御伽噺の裏の裏 昔々、あるところにピノと言う若い剣士が居ました。
ピノはドラゴンにさらわれたチェルシー姫を助けるために
一人、ドラゴンの城に向かうところでした。
そのドラゴンは恐ろしく、いままでに99人の勇者を殺していました。
「何とかして、姫を!!!」
ひたすら遠く前方に見える大きな城を目指しながら歩くピノ。
「どうして姫を助けたいんだい?」
声の主は目の前に居る小柄な女の子でした。
その子は黒いシャツに黒いパンツといった今で言うスパイのような格好だったのです。
「あなたは誰?」
「あたしは魔女のヴェルタース」
ヴェルタースは笑顔で答えました。
「魔女は黒いワンピースを着ているんでしょう?」
ピノは聞きました。ヴェルタースはあまりにもピノのイメージとはかけ離れていたからです。
「そんなわけないだろう?
魔女が、素直に黒いワンピースなんか着て
『せめてコスモス色なら良かったのに』なんていってると思ったのかい?そりゃあ、幻想。」
それもそうです。魔女狩りのある中魔女が魔女らしく『魔女』と言う格好をしている訳が有りません。
「なら魔法を見せてよ。」
ピノは言いました。
ヴェルタースは平然と言い放ちます。
「ムリだね。あたしは魔法なんか使えないよ。」
ピノは絶句しました。本当に二の句が繋げなかったのです。
それはそうでしょう?だって魔女と名乗るのに魔法が使えないなんて馬鹿げています。
「考えてもご覧よ?
あたしみたいな若造がこの年で魔法が使えてたら何の苦労もありゃしない。
ちょっとの修行で魔女や魔法使いになれるのなら人口の1000分の999は魔女や魔法使いだよ。」
それはそうです。でもピノだってそれで丸め込まれる馬鹿じゃありません。
「じゃあ、なんで魔女だ何て名乗ってるのさ。」
ヴェルタースはいけしゃあしゃあと、とんでもない返事を返してきました。
「それはね、セオリーだからさ。
勇者がいて、ドラゴンがいたら魔女や魔法使いが居なくちゃいけない。
脳みそは勇気だけでパンパンな愚かな勇者より、遥に賢い魔女がね。
それで、急ごしらえのあたしが借り出されたってわけ。」
ピノは誰に、とも何故?とも聞きませんでした。
聞けばピノの存在が根本から覆されそうだったからです。
「それで、君はどうするの?ヴェルタース。」
ヴェルタースはにっこりと微笑みました。魔性の・・・いえとっても綺麗な天使の微笑です。
「あんたの旅路にお邪魔させてもらうのさ。」
「やっぱり・・・・。」
***
ピノとヴェルタースは森の中を歩きつづけました。
三日三晩、野宿しながらも旅をしたのです。
その間夜になるとヴェルタースはどこかへ消え、
あくる日洋服もぴかぴか、髪からシャンプーのにおいを香らせながら、
帰ってくるのです。
それもピノは聞くのをやめました。
それ全て保身の為。
***
そしていよいよ、ドラゴンの城。
「おっじゃましっまぁ〜す。」
ヴェルタースは暢気に正門から入って行った。
「ヴェルタース!危ないよ!」
ピノが止める。
「ん?大丈夫よ!ウォーマンタイ、ウォーマンタイ。」
「何それ呪文?」
ピノが聞いた。
「知りたい?」
ピノは顔をぶんぶんと横に振り回した。
「そ。」
ヴェルタースはそれっきり何にも言わなかった。
そしていくつかの扉をくぐって広間にでるとそこには案の定ドラゴンが居た。
案の定いかにもドラゴンという形で居たのだ。
「え?もう出番?」
ピノに目を止めると、ドラゴンは誰に言うでもなく呟いた。
「違う違う、あんたに言ったんだよ。」
ドラゴンはまるで誰かと話しているように呟いた。
「だから、話してるんだよ。
しかとしないでもらえる?」
え?私ですか?
「そうだよ。」
「あんたしか居ないじゃん。」
ヴェルタースさんまでいっしょに物語を混ぜっ返さないでくれます?
「むりでしょ?根本からこの話はなんか間違ってんだからさ。」
「そうそう。第一題名がね『お伽噺の裏の裏』って、 裏の裏って表じゃねーの?」
ドラゴンさんお仕事、お仕事。
せめて、声のトーンをさげてください
「あぁはいはい。小声にしますよ。
お仕事ね。
俺は前から、ドラゴンって言う役柄にはいくつか不満が合ったんだよ。」
と、申しますと? 「俺らね、思いっきり神秘の生き物じゃん?そのくせこんなに城構えちゃって、実体ありまくり。いったいどこの業者がこの城の建設受け持ったの?オオミ建設クロサワさん?
それに、どうやって繁殖するのって感じじゃない?
ついでにさ、こんなにでかくしちまってどうするわけよ?
この体引きずって飛ぶと疲れるじゃん尻のあたりだらぁんと下がっちゃ駄目だって言うし(イメージ的に)、そのくせかなり短足だから、地上戦だと話にならないでしょ?
それに火、吐けるくせに勇者にはあたらないし、硬い鱗あるくせに
剣でやられるしさ。」
な、なるほど・・・・。
「どうせ今回も、そこのちっちゃいのに剣でやられる設定だろ?
姫なんかさらった事になちゃってさ。
恐怖の猛禽類がなんで姫をさらってこなきゃいけないわけ?
白昼堂々、姫で人形遊びでもしようってか?
そんな趣味ないし、てか、姫って何処が普通の人間と違うわけ?」
それは、王様の娘で・・・・。
「俺そんなに王様崇めてないから、
生活に金いらないから、身代金目的でさらったってしかたねぇだろ。」
たしかに・・・。でも、物語ですから。
「あぁあ、湿っぽいドラゴンだね。 この物語ってまったくふざけてやがるよ。
森のすぐ裏手には大通りがあって宿があるし、それは普通だけどね。
あんな浅い森、開拓しない方がどうかしてる。
考えてみるとさ、あたしも含めキャラクターの名前ってば、全部
ダイエット中の女の子の敵!あの忌々しい糖分の塊の名前でしょ?
どうせドラゴンの名前だって『カール』とか『カラムーチョ』とかそんなんでしょ?
勘弁してほしいよね。」
「ね〜。」
ヴェルタースはひたすらドラゴンと愚痴をこぼしていました。
「あっ、ナレーションのやつ戦線離脱しやがった。」
お願いです。仕事してください。この話さっさと終わらせましょう。
「しゃーないねぇ、ドラゴンしばらく動くなよ。
あたしが魔法で押さえてる事にすっから。」
「わかった。」
そして2人は声のトーンをあげた。
「うぐわぁ、なんだ体が動かないぞ!」
ドラゴンは突然の体の異変にうめきます。
「ピノ!!!
あたしの魔法で止めてるうちにさっさと止めを刺しちまいな。
あんまり長くもたないよ。」
ヴェルタースは苦渋に満ちた顔で叫びました。
「はい!(魔法使えるの?)」
ピノはまっすぐに突っ込んで剣でドラゴンの体を貫きました。
ドラゴンは大きな音を立てて倒れます。
「このシーンって精神衛生上よくないんじゃ・・・。」
ヴェルタースさん!!!
「はいはい。」
ドラゴンの貫かれた心臓からが出てきました。
「現実問題ありえないって、姫呼吸できないし、カラムーチョだって血流とどこおるって・・・」
おい、こら!
「はいはい。」
「ピノ!」
「姫!」
こうしてピノとお姫様は結婚して末永く幸せに暮らしましたとさ
めでたしめでたし。