2.
『一週間前、ケットシー通りのグローブス夫妻とその二人の息子さんが死体で発見されました。』
「えっ!?」
テレビでそのニュースが流れたのは、ミランダさんが襲われた次の日、ディランとジェームズさんが病院に行っていて私が留守を預っている時だった。
「ケットシー通りってお祖母ちゃんが住んでる所・・・。グローブスって!ジョンの!?」
昔、私は母さんが入院して父さんも忙しくて世話が出来ないという事でお祖母ちゃんの家に居た事があった。
その時に、グローブスさんという人達と仲良くしていた記憶がある。まさかあのグローブスさんが殺されるなんて・・・。
でも、私が知ってるグローブス夫妻には2人の息子さんの他に娘さんとその子供のジョンがいた。
私は母さんが死んじゃって、家に帰って来てそのあとの事はよく分らないけど、別居でもしたのかしら?あの家、ジョンとおばさんだけ浮いてたし。
『刺し傷はクローブス家のモノと一致した。やはり、十七年前の関係者じゃないのか?』
あの刑事さんの言った事が頭をよぎる。
あの家に・・・、行ってみよう。ミランダさんの事とかじゃなくて!
ジョンだって心配だもん。
生憎父さんは出張で留守だし。
ケットシー通りはちょっと遠いな。でも、大丈夫。いけるわ。
* * *
そう言って、ホントに来てしまった。ケットシー通りに。
万が一のため父さんにはお祖母ちゃんの家で探し物があるといってある。
だから、私はまずお祖母ちゃんの家に行った。
「久しぶりだね。メイ。」
お祖父ちゃんは少し前に他界して今お婆ちゃんは一人暮らし。この生前おじいちゃんの残した本がいっぱいある。その中の一冊を探すふりして今日ここに来たわけだ。
「久しぶり、お祖母ちゃん。懐かしいね。ちょっとその辺探検してくる。」
そう言って、私は早々に家を出た。
グローブス家、即ち事件現場へ行くためだ。
昔からせっかちだったから不審には思われてないと思う。
ジョンかぁ・・・、懐かしいな。飛びっきり仲良しだったし。
『ねぇ、メイ。大きくなったら結婚しようね。』
『うん!』
そういや、そんな事もあったかな。小さいころって軽々しく凄い事いってるわね。
でも、思い出としては凄いいい線行ってるわよね。
「ジョン大丈夫かなぁ?」
久々に訪れたグローブスさん宅は以前と何ら変わるところは無かった。
『立ち入り禁止』を指す物々しいテープや、騒々しい捜査の音を除いては。
流石に、ここら辺では一週間前に起こった事件と言う事も会って人影もまばらだった。
「そりゃ、来ただけですぐ合えるとは思ってなかったけど・・・。手がかりなさ過ぎなんじゃないかしら。
野次馬に紛れて聞き込みするにもその野次馬が少ないわ。報道陣くらいなんじゃ・・・。」
いきなりやる気をそがれ、出鼻をくじかれる形となってしまった私は大きめのため息を吐いて途方に暮れていた。
「いっそ、本当に思い出巡りでもしようかしら?」
あたりを当ても無く見回すと一本の細い道が目に付いた。
たしか、あの先には公園があったはずだ。
「昔よく、ジョンと遊んだわね。」
よしっ!っと意気込んで私は細道に入っていった。
そこから先はほんとに思いで巡り気分だった。
あそこ覚えてる!などと一人で騒ぐ位だった。
____あそこおぼえてるー______
声が何度も木霊して遠くで何度も聞こえた。
「そういや、昔この道で面白がってたっけ。」
行き着いた公園は小さい頃とは打って変わって小さく見えた。
「昔も、ここは凄く広くてテーマパーク気分だったのになぁ。」
「ホントだな。」
帰ってくるはずの無い相槌にびくりと驚いて声の方に振り向く。
「よ!しばらく。」
「あ!___」
その子に立っていた人は、紛れも無くあの雨の日の少女だった。
否・・・・、少年だった。
「あんた!男だったの!?」
今度はジーンズとTシャツという出で立ちで、髪も後ろで結ってあった。
合点したようで、大袈裟に私を指差した。
「あの雨の日の奴お前だったのか!暗くてよくわかんなかった、似合ってるだろ?女装もさ。」
待ってよ。こいつはあの日の人物を私と思ってなかったの?
「しらなかったの?じゃあ何よ『しばらく』って。」
こいつは、驚いたような顔をした後。すごく無邪気に笑った。
すごく、無邪気に。
「あっ・・・・!」
私はやっと合点がいった。やっとだ、こいつは初めからわかってた。
この子は・・・。
「ジョン!!」
「ご名答!メイ。」
イヤだ・・・・。
久しぶりの対面なのに、ひどく悪寒がする。
「あんた・・・、あの時なんであそこに居たの?」
出来れば、予感が外れてくれることを。
「素直に、答えると思ってんのか?」
そいつは、茶化すような口調で
さっきと違う貼り付けたような笑みを向けてきた。
「答えてよ・・・。」
だんだん、分からなくなった。こんな事なら、素直にディランの家に居ればよかった。
「ディノぉ・・・。」
ジョンの顔から貼り付けた笑みも消えた。
「教えてやるよ、メアリー。そのディラン・オーズリーの母親を、殺すためさ。」
ディラン・オースズリーの母親を、殺すためさ。コロスタメ。
ヤダ!!
涙が頬を伝う、でも不思議とジョンを怖いとは思わなかった。
そう言った顔がとても辛そうだったから。
その顔のまままた自分の首を絞めるように言った。
「次は誰と思う?はじめはグローブスの奴らだぜ?」
はっとなってジョンを睨む。
「まだやるの?もうやめてよ!何のためよ!」
もう、誰かが死ぬのなんてヤダ。ジョンだって本気で望んでるわけ無い。
「さぁな、ジェームズ・オーズリーに言っといてくれよ。ジョン・グローブスは生きてるって。」
「ジェームズさん・・・。」
本当に、・・・何なのよ。
「じゃあな!」
「待っ!」
とめる間もなく行ってしまった。
その後、お祖母ちゃんのうちに戻って適当な本を探し物だと言って帰ってきた。
脱力したように自宅のドアを開ける。とそこにはディランが居た。
「ディノ・・・。」
どうしてここに、と言いかけて止めた。こいつは合鍵の隠し場所を知っている。
「どうしたの?」
「それはこっちの台詞だ。どこ行ってたんだ?
お前この前病院で父さんと刑事さんの話聞いてたよな?何をやってるんだ勝手に。」
鋭い瞳を向けられると、答えないわけには行かなくなる。
でも、私には説明する術を持たない。
「わかったわ・・・。一緒に来て。」
今分かってる事は・・・・・、
ジェームズさん。
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